山の雪も解けた四月下旬
分杭峠へ行くはずだった予定が
急遽 高速バスで
鹿島神宮へ向かうことになりました
登山靴も新調し
楽しみにしていたので
あー残念 と一瞬は思ったけれど
一人で出かけるのは
何時ぶりだろう
すこし胸が高鳴る

ひと駅手前で下車し
空やビルの写真を撮ったりして
寄り道しながら
東京駅へ向かいました
青い空
朝の空気が清々しく
車もまだ少ない
ああ
本当に気持ちがいいなーと
深呼吸しながら 両手を大きく振る
こんなに開放的な朝は
久しぶりでした
高速バスに乗り込み
窓際の席に腰を下ろすと
うしろの座席からは
二人の楽しそうな会話が心地よい
どうして今
わたしたちは
一緒に高速バスに乗っているのだろう
不思議なご縁だなと思いながら
窓の外の田んぼを
ぼんやりと眺めていました
気づけば
鹿島神宮のバス停に到着
がらんとして 人の気配がなく
観光地のにぎわいとは程遠く
すこし 拍子抜けしてしまいました
バスターミナルを出てからも
土産物屋も半分ほどシャッターが閉まり
人の姿も まばら
参道で食べ歩きしようと思っていたのに
ちょっとがっかりです
気を取り直して 大鳥居をくぐると
境内は 想像していたよりもはるかに広く
地図をみてから
まずは道なりに進み始めました
日本三大楼門のひとつとも言われる
立派な門
けれど
その楼門は工事中で
足場に囲まれていました
今思えば
人が少ないのも
そのせいだったのかもしれません

奥参道の杉並木の中を歩いていくと
空気が清々しく湿った感じに変わりました
さっきまでとは違う空気
まるで別世界に入ったようでした
三人とも それぞれの間合いで
やわらかな土を踏みしめながら
静かに要石へ向かっていました
小さなくぼみのある石のそばに
説明書きの看板があり
つい じっくりと
読み込んでしまいました
要石が地中の大鯰の頭を
押さえているのだという
地中でつながるという言葉
地層には
何億年もの時間が刻まれ
その土地ごとに
岩の性質も
栄養分も違う
この場所にも
何か特別な
長い時間の積み重なりが
あるのだろう
そんなことを思いながら
要石の前に立ち
境内の空気を感じていました
次に御手洗池へ
池の水は
驚くほど澄んでいて
その中を
金 赤 黒の鯉が
ゆったりと泳いでいました
透明な水と池の中の鳥居
それに寄りかかるように大きな苔の生した木
対岸では花嫁さんがたたずんでいました
深い緑の木々と
白無垢のコントラストが美しく
あるものすべてに見入ってしまう景色でした
気づけば
無意識に呼吸も深くなっていて
何度も池の周りを歩いていました

御手洗池のそばのベンチで
おやつタイムです
持ってきたロースイーツをおすそ分け
外で食べるおやつは
なんだか特別に美味しくて
三人で笑いながら
あっという間に食べてしまいました
簡単なロースイーツバーだけれど
やっぱり持ってきてよかった
御手洗池を後にし
境内を歩いていると
たまたまそこに立っていた案内の方が
ご神木は見た?
絶対見た方がいいよと声をかけてくれました
それならばと
拝殿の奥へ見に行ってみました
鹿島神宮でいちばん古いという
大きな木
けれど生き生きとした幹と枝

見上げても
てっぺんが全く見えません
千年以上
ここに在るという
この木は
その長い年月で何を見てきたのだろう
どれだけの人が
ここを通り
どんな時代が
この木の下を過ぎていったのだろう
雨の日も暑い日も
ずっとここで
たくさんの命を
見守ってきたのかもしれない
ご神木の生命力と時の流れに
しばらく言葉が出ませんでした
境内を出たあとは
海辺に立つ日本一大きな鳥居を見に
海へ向かって歩きました
空 海 光
水平線が広がる海の中に
真っ赤な鳥居
目の前には
わたしたちだけでした
こんなすごい風景を
独り占めできるなんて
本当にラッキーだねと
三人で驚いていました

そして帰り道
バスターミナルへ向かう途中で
道を間違え
曲がった先に
なまずののぼりがあり
ここでお昼を食べることになりました
さっき
なまずの言い伝えがある
要石を見てきたばかりだし
不思議だね
偶然すぎて怖いね
と三人で笑いながら
なまずメニューに挑戦してみるか
などと悩んでいました
するとお店の方が
なまずの天ぷらを
サービスしてくれるというので
お言葉に甘えて
なまずのてんぷらを美味しくいただきました
この日は
不思議な巡り合わせが
いくつもありました
行き先が急に変わったことも
道に迷ったことも
あとから思えば
どこかで
つながっていたのかもしれません
あの日が
何かのはじまりだったのか
本当のところは
はっきりとは分かりません
けれど
鹿島神宮の
驚くほどの澄んだ水
静かな木々の空気
程よく湿ったやわらかい土
三人で笑って
無理のない
やわらかな時間があった
あの一日が
わたしの中で
何かを
わずかに動かした気がします
